2023年8月末、大谷選手が所属するエンゼルスが、贅沢税をかからなくするために主力選手を放出するというニュースが世間を騒がせました。
主力でも容赦なく放出するMLBを象徴するような出来事でしたが、贅沢税とは一体何なのでしょうか?
この記事では、贅沢税の内容や使い道、サラリーキャップとの違いについてなるべくわかりやすく解説していきます。
【MLB】ぜいたく税(贅沢税)とは?サラリーキャップとの違いは?
贅沢税とは飛び抜けて年俸が高い選手ばかりを揃えて圧倒的に優勝するチームが出ないように、あらかじめ定められた年俸上限を超えるとペナルティが課されるシステムのことです。
圧倒的に強いチームが出ると、途端につまらなくなりますからね。
贅沢税の英語名や正式名称は?
贅沢税の英語名は「Luxury Tax(ラグジュアリー・タックス)」です。
そのままの意味ですね!
ただし上記は俗称で、正式名称は「CBT=Competitive Balance Tax(コンペティティブ・バランス・タックス)」と言います。
無理やり訳すと「競争均衡税」で、チーム間の戦力均衡を保つための税(つまり贅沢税)という意味になります。
贅沢税とサラリーキャップの違いは?
サラリーキャップとは、リーグごとの年俸総額の上限を超えてはいけないというルールのことを指します。
贅沢税とサラリーキャップは、リーグの戦力均衡を保つという目的は同じものの、定められた年俸上限を超えてもいいかどうかが大きな違いになります。
贅沢税 | 年俸上限を超えてもいいが、超えたらペナルティを課される |
サラリーキャップ | 年俸上限を原則厳守 |
【MLB】贅沢税の内容をわかりやすく解説!
贅沢税は前述の通り、あらかじめ定められた年俸上限を超えるとペナルティを課すというものです。
年俸上限のことを英語では「Threshold(しきい値)」と呼びます。
贅沢税支払いの基準となるしきい値は?
年度 | しきい値 |
---|---|
2023年 | 2億3300万ドル(約280億円) |
2024年 | 2億3700万ドル(約285億円) |
2025年 | 2億4100万ドル(約289億円) |
2026年 | 2億4400万ドル(約293億円) |
MLBでは物価上昇に合わせて、選手の年俸が毎年のように上がっていきます。
選手の年俸額に合わせて、年俸上限(=しきい値)も右肩上がりとなっています。
しきい値を超えた場合のペナルティの内容
しきい値を超えた場合、つまり年俸上限を上回ってチーム編成してしまうとペナルティが課されます。
このペナルティがお金の支払いになるので、贅沢「税」と言われています。
ペナルティはしきい値を超えた金額、また連続してペナルティを受けた年数によって徐々に重くなっていきます。
超過金額の範囲 | 1年目 | 2年目 | 3年目以降 |
---|---|---|---|
超過が2000万ドル以下 | 超過分の20% | 超過分の30% | 超過分の50% |
超過が2000万ドル~4000万ドル | 超過分の32% | 超過分の42% | 超過分の62% |
超過が4000万ドル~6000万ドル | 超過分の62.5% | 超過分の75% | 超過分の95% |
超過が6000万ドル以上 | 超過分の80% | 超過分の90% | 超過分の110% |
計算方法は累進課税制度と同じく、超過金額の範囲ごとの税率で計算し、最後に合計する方法です。(具体例を使って次項で計算)
加えて、しきい値を4000万ドルを超過した場合、ドラフト1巡目の指名順が10位後回しにされます。
つまり、期待の若手を獲得しにくくなるということです。
贅沢税の計算例
例えば、このようなチームがあった場合の贅沢税の計算を行います。
- しきい値を超えたのが2023年で2年連続。
- 2023年の総年俸額は2億7500万ドル。
2023年のしきい値は2億3300万ドルのため、このチームのしきい値超過分は4200万ドル。
先ほどの税率表に合わせて、各超過金額の範囲を計算していくとこのようになります。
超過金額の範囲 | 2年目 | 計算 |
---|---|---|
超過が2000万ドル以下 | 超過分の30% | 2000万ドル×30%=600万ドル |
超過が2000万ドル~4000万ドル | 超過分の42% | 2000万ドル×42%=840万ドル |
超過が4000万ドル~6000万ドル | 超過分の75% | 200万ドル×75%=150万ドル |
超過が6000万ドル以上 | 超過分の90% | 超過分なしのため計算しない |
これらを合計すると、贅沢税として支払う金額は1590万ドル(約19億円)。
しかもしきい値を4000万ドル以上超過しているので、ドラフト1巡目の指名順が10位後回しのペナルティも食らうこととなります。
チームの支出という観点で言うと全くの無駄金なので、払わないに越したことはありません。
【難易度高】選手が実際に受け取る年俸額と贅沢税の計算で使われる年俸額は別物
少し難しい話になりますが、選手が実際に受け取る年俸額と贅沢税の計算で使われる年俸額は別物です。
5年8500万ドルの契約でカブスへ移籍した鈴木誠也選手を例に解説していきます。
下記の表は、鈴木誠也選手が毎年受け取る年俸額の表です。
年度 | 年俸額 |
---|---|
契約金 | 500万ドル |
2022 | 700万ドル |
2023 | 1700万ドル |
2024 | 2000万ドル |
2025 | 1800万ドル |
2026 | 1800万ドル |
この表の金額に合わせて、2022年は贅沢税の計算に700万ドルだけカウントされるのかと言うと、それは違います。
長期契約中の選手の贅沢税計算用年俸額は、契約期間中の平均値で求められます。(契約金含む)
贅沢税計算用年俸額のことをAAVと言います。
よって、契約総額8500万ドルを5年で割った1700万ドルが贅沢税の計算に使われます。
その他、MLBの選手の契約には様々なオプションが付帯する場合があり、それぞれ贅沢税の計算に含まれるかどうかは下記の表のように判断されます。
状況 | 贅沢税への影響 |
---|---|
出来高ボーナス(Incentive) | 発生すればカウント |
選手側の契約延長オプション(Player Option) | カウントされる |
球団側の契約延長オプション(Club Option) | カウントされない |
Club Optionを行使しない場合の解約金(Buyout) | カウントされる |
相互オプション(Mutual Option) ※選手と球団相互の同意で契約延長される | カウントされない |
ベスティングオプション(Vesting Option) ※選手が条件をクリアした時に自動で契約延長が確定する | カウントされない |
オプトアウト(Opt-out) ※長期契約途中で契約破棄できる条項 | 加味されない |
出場停止処分(Suspension) | 出場停止期間分が減額される |
シーズン途中のトレード | 獲得前と後のチームで按分 |
【MLB】贅沢税の使い道は?
贅沢税は毎年12月2日に金額が決定し、コミッショナー事務局から支払い義務があるチームへ通知されます。
支払い期限は翌年1月21日まで。
集められた贅沢税の使い道はMLBからこのように発表されています。
配分 | 内容 |
---|---|
1300万ドル(固定) | MLB選手の福利厚生費 |
1300万ドルを引いた残りの50% | MLB選手への給付プラン(年金や健康保険)への拠出 |
残りの50% | 贅沢税対象外チームへの配分 |
【エンゼルス】主力を放出したのは贅沢税回避のため?
エンゼルスは2023年8月30日時点で、贅沢税の対象となる年俸額が$238,428,078となっており、しきい値を超えています。
2023年のしきい値は233,000,000なので、$5,428,078(約7億円)オーバーしていることになる。
もはやプレーオフ進出の可能性がほぼゼロになった現在、今年オフにFAになり、かつ来年の構想外の高額年俸選手を囲っておく必要性は皆無で、放出に踏み切った格好となりました。
放出対象となるのは、下記6選手と言われています。
選手名 | 今季年俸 | 削減可能年俸(残り1ヶ月分日割り) |
---|---|---|
ルーカス・ジオリト | $10,400,000 | $1,733,333 |
レイナルド・ロペス | $2,338,726 | $389,787 |
マット・ムーア | $7,550,000 | $1,258,333 |
ドミニク・リオン | $750,000 | $125,000 |
ハンター・レンフロー | $11,900,000 | $1,983,333 |
ランダル・グリチャック | $9,333,334 | $1,555,555 |
全員ウェーバーにかけて他球団が獲得すると約700万ドルの年俸削減に成功し、贅沢税の支払い回避も視野に入ってきます。
ちなみにウェーバーにかけた選手は他球団が自由に獲得でき、補償も不要です。
ジオリトやグリチャックなど、トレードで有望な若手を放出してまで獲得した選手をわずか1ヶ月ちょっとで手放すというのは編成の失敗と言わざるを得ません。
これで「今年は終戦」であることを意味し、今後は若手育成の場と割り切った戦いになっていくはずです。
大谷選手の怪我といい、2023年シーズンのエンゼルスは残念な結果となってしまいました。
【MLB】贅沢税とは?税の内容や使い道をわかりやすく解説!【まとめ】
この記事では、贅沢税の内容や使い道、サラリーキャップとの違いについて解説してきました。
贅沢税とは、定められた年俸上限を超えるとペナルティが課されるシステムのことです。
基本的には超過額や違反年数によって決められたパーセンテージの罰金を支払うことになりますが、あまりに超過額が多い場合はドラフト戦略にも影響を及ぼすようになっています。