2023年オフにFAになる大谷翔平選手ですが、クオリファイングオファーの提示があるかどうかというニュースをよく目にします。
クオリファイングオファー(QO)は複雑なルールがあるMLB特有のもので、分かりづらく感じられるかもしれません。
そこでこの記事では、クオリファイングオファー(QO)の意味をMLBのFAの流れに沿ってわかりやすく解説していきます。
【MLB】クオリファイングオファー(QO)とは?
クオリファイングオファーとは、FA選手に対して所属元の球団が提示する契約条件のことを指します。
MLBでは自動的にFAになる
MLBではFAの取得資格を満たしたら自動的にFAになります。
日本プロ野球ではFA権は「取得」に過ぎず、「権利行使(宣言)」は別途必要。
FAになった選手は最初から全チームと交渉できるわけではなく、元所属チームとの独占交渉期間が設けられています。
独占交渉期間はワールドシリーズ終了から5日間。
この期間中に、元所属球団はQO提示をするかしないかの二択を迫られます。
QOの金額は毎年決まっている
クオリファイングオファー(QO)の内容は、下記のようにMLB全球団で統一されています。
- 契約期間:1年
- 年俸額:その年の年俸額上位125人の平均額
2023年オフのQO金額は、2050万ドル(約29億7000万円)前後となる見通しです。
つまり、クオリファイングオファーとは簡単に言うと、1年契約で約30億円の契約更新オファーということになります。
QOは日本で言うところの人的補償に似ている
クオリファイングオファー(QO)にはもう一つの大きな役割があり、それは翌年のドラフト指名権の獲得・喪失です。
QOを提示した選手がQOを拒否して他球団に移籍すると、下記のようにドラフト指名権を獲得したり喪失したりします。
QO提示選手を失った球団 | ぜいたく税の適用状況により、QO補完指名権を得る |
QO提示選手を獲得した球団 | ぜいたく税の適用状況により、1人以上の指名権を失う |
つまり日本の人的補償と同じで、FA選手を失うとドラフト指名権(すなわち選手補充)を受け、逆に獲得するとドラフト指名権を失うといった具合です。
獲得・喪失するドラフト指名権の内容はややこしく難解なため割愛。詳細は下記をクリックでご覧いただけます。
獲得・喪失するドラフト指名権の具体的な内容
FA選手獲得側:ドラフト指名権を失う
対象 | 失うドラフト指名権 |
---|---|
ぜいたく税対象チーム | 2、5番目に高い指名権 + インターナショナル・ボーナス・プール100万ドル |
ぜいたく税対象ではない+収益分配対象ではない | 2番目に高い指名権 + インターナショナル・ボーナス・プール50万ドル |
ぜいたく税対象ではない+収益分配対象 | 3番目に高い指名権 |
総年俸が高い球団(≒有名FA選手を多く獲得する球団)は上位で指名できる有望な若手を取りにくい制度となっています。
特に贅沢税対象チームは2人分のドラフト指名権を失うので、かなりの痛手に。
FA選手流出側:ドラフト指名権を得る
対象 | 得られるドラフト指名権 |
---|---|
ぜいたく税対象チーム | 4巡目指名終了直後の補完指名権 |
ぜいたく税対象ではない+収益分配対象ではない | 2巡目指名終了後の補完指名権 |
ぜいたく税対象ではない+収益分配対象+契約総額が5000万ドル未満 | 2巡目指名終了後の補完指名権 |
ぜいたく税対象ではない+収益分配対象+契約総額が5000万ドル以上 | 1巡目指名終了直後の補完指名権 |
潤沢な予算がない球団ほど上位でのドラフト指名権を得られ、最高で1巡目+1巡目補完で1巡目レベルの選手を2人獲得することができます。
エンゼルスがシーズン終盤に贅沢税をシビアに管理していたのは、少しでも良い選手を獲りたいという思惑があったのかもしれません。
【MLB】クオリファイングオファー(QO)のメリット・デメリットは?
クオリファイングオファーにはメリット・デメリットがあり、流出球団・獲得球団・FA選手本人の間での思惑が交錯します。
QOのメリット
QOのメリットは、流出球団・獲得球団・FA選手本人の3者でこのようなものが考えられます。
誰のメリット | メリットの内容 |
---|---|
流出球団 | ①QOオファー額より価値が高い選手にQOを出すことで、ドラフト指名権を獲得できる。 ②確率は低いものの、スター選手を安価で引き留められる可能性がある。 |
獲得球団 | 特になし |
FA選手本人 | 自身の年俸相場より高い年俸をもらえる可能性がある。 |
基本的にクオリファイングオファーはFA選手が流出する球団に対しての救済策という意味合いが強く、基本的には流出する球団にのみメリットがあります。
例えば大谷選手の場合、エンゼルスがQOを提示して大谷選手が受諾すれば安価で1年保有できるし、もし大谷選手がQOを拒否してもドラフト指名権を得られるというどちらを選んでも得するという状況になります。
QOのデメリット
誰のデメリット | デメリットの内容 |
---|---|
流出球団 | 特になし |
獲得球団 | ドラフト指名権を失うため、活躍できるかどうかをシビアに見極める目利き力が必要 |
FA選手本人 | QOを拒否した後に他球団から良いオファーをもらえない可能性がある |
QOのデメリットとして、獲得球団がドラフト指名権を失うというのは上記の説明通りですが、選手本人にもデメリットがあり、QOを受諾・拒否の選択によっては大金を失うリスクもはらんでいます。
大谷選手の同僚、マイク・ムスタカス選手がQOを拒否して損を被った一人でした。
2017年、キャリアハイの成績を残したムスタカス選手は、QO(この年は1740万ドル)を拒否して意気揚々とFA市場に参入。
ところが他球団と契約がまとまらず、結局1年550万ドルというQOの3分の1程度の金額で残留する羽目になってしまいました。
ムスタカス選手の年俸推移はこちらの記事で詳しく解説しています。
【MLB】大谷翔平はクオリファイングオファー(QO)を受諾しない理由とは?
結論、大谷選手はQOを受諾するメリットがないため、ほぼ間違いなく拒否するはずです。
QOを提示するエンゼルスの思惑
クオリファイングオファーを提示するエンゼルスの思惑は下記の通り。
条件 | エンゼルスの思惑 |
---|---|
大谷選手がQO受諾 | 2023年より安い金額でもう1年大谷選手を保有できる |
大谷選手がQO拒否 | ドラフト指名権を得られる |
QOはその性質上、QOの年俸額以上の市場価値がある選手にのみ提示されます。
でないと、選手の価値以上の年俸を払うことになってしまいます。
選手からすると、QOは自身の市場価値以下の金額提示となるため、基本は拒否するものということになります。
QOを拒否して、再契約もしくは他球団との交渉が基本線
大谷選手は今後エンゼルスから提示されるQOを拒否した上で、エンゼルスと再契約もしくは他球団との交渉でより良い契約を探していくこととなります。
MLBの史上最高年俸額を叩き出すのか、非常に楽しみですね!